北の街、そこを守る者

敵の軍勢、その数ははかりしれない。
極東の島国日本はその軍勢の攻撃を最も多く受けている国であり、決戦場である富士山麓からはるか離れた北の街とて例外でもない。

「秋子さん、アレは……なんですか」
「祐一さん、テレビで見ませんでしたか? 今、日本では―――いえ、世界中で『敵』からわたしたちを守るために怪獣たちが来てくれているって」
「いや、そりゃまあ知ってますけど」
確かに知っている。
テレビで中継されているその姿を見て、全身に震えが来た。
ネットであちこちのサイトを覗いてみても、今はその話題で持ちきりだ。
人類は未曾有の危機に直面しているはずなのに、人類は希望でいっぱいだった。
そう、俺たちじゃあ敵には敵わないかもしれない。
でも、俺たちを守る奴らが来てくれる。
誰もが皆、そう信じていた。
「だから、この街にも来てくれたんですよ。私たちの守護神が」
「いや、それは嬉しいんですけど―――」
そいつの力は圧倒的だった。
光線を発することもない。
火炎を吐くこともない。
空を飛ぶこともない。
でも、その体か身じろぎするだけで幾多の敵が滅ぼされていった。
それは子供の夢の結晶。
その体は山のように大きく。
その体は雪のように白く。
その体はハンペンのように三角で。
その目は黒くて大きかった。
以上、解説終わり。
「なんで―――ガバドンなんですか」
「あら、祐一さんはガバドンお嫌いですか?」
「いや、嫌いとかそういう問題ではなく」
「いいじゃないですかガバドン。あの子、大好きだったんですよ」
「まあ、そりゃそうなんでしょうね」
秋子さんのいう『あの子』ってのは、もちろん名雪のことだ。
名雪ガバドン好きなのはよくわかる。
「『あんなにたくさん眠れて、凄い幸せそうだよ』って」
「だから初期型ですか」
「ええ、後期型は自衛隊に攻撃されて起こされちゃいますから」
そう、俺たちの目の前にいるのはガバドン(初期型)。
熱戦を発したり敵を引き裂いたりすることすらなく、それはもう気持ちよく寝ていた。
そんでもってその巨体につっかかる『敵』は、寝たまま不機嫌そうに振るわれた手足で潰されていた。
ちなみに突っかからない敵はどうかというと、ガバドンの寝返りによって全部潰されてる。
「あの子、ガバドンといっしょに寝るのが夢でしたから」
「そんじゃ今は幸福絶頂でしょうよ」
秋子さんの言葉に投げやりにそう返事をする。
ちなみに当の名雪はというと、ガバドンの上で気持ちよさそうに寝ていた。
「だおー……」
当然のようにけろぴーを抱きしめて。
「なんでガバドンが寝返り打っても名雪は落ちないんですかね」
ガバドンは子供の味方ですから」
「ああ、そうですか……」
脱力して座り込みそうになる俺たちの前で、ガバドン名雪は今日も寝つづける。
「だめだよゆういち。わたしのパンツなんておいしくないよー」
「誰が食うかっ!」
名雪の間抜けな寝言と、アメリカのアニメのようにぺちゃんこにされた敵を量産しつつ。かくして北の街は守られる。
守られるのは嬉しいんだけどもうちょっと違う奴に守ってほしかったです。
「北国なんだから、トドラとかペギラとか」
「祐一さん、いくらなんでもそこまで寒くはないですよ」
「ゆういち、夜中にこんにゃくなんか持って何するき……」
「そんなことせんわっ!」
とりあえず、戦い終わった後の俺の立場がとても心配だ。

まるであとがきのように

勢いだけで書いてしまい、反省している。
まあ、これを名雪祭りに提出しなかったのは正解だと思いますが。
……あ、これ俺の初のkanonSSだ……